離婚コラム
銀行員の平均年収はかなり高く、勤務先の福利厚生も非常に手厚い傾向にあります。それと引き換えに、日々の長時間残業は当然のこと、休日も接待ゴルフ等で家事や育児を手伝う余裕もないほど多忙、ということもあるでしょう。また、頻繁な転勤や海外勤務も含めた異動があり、ある段階で関連会社へ出向となることもしばしばあります。
以下では便宜上、夫が銀行員、妻は非銀行員という前提で解説していきます。
「銀行員の夫は仕事に集中。家事や育児は妻がもっぱら担当する」ということで夫婦が納得しているのなら、そのことが現時点で離婚原因になることも当然ありません。
仮に妻が不満を募らせているようであれば、その負担を軽減するために夫がやれることは色々とあるはずです。あるいは、たまには子どもをどこかに預けて妻に羽を伸ばしてもらうのもよいかもしれません。最近ではあまりないのかもしれませんが、離婚すると職場に居づらくなるとか昇進できなくなるという行風がもしあるのなら(独身者の方が横領などをやりかねないと銀行は考えているのかもしれませんが…)、普段から妻の不満をくみ取るようにしておきましょう。
ところで「現時点で離婚原因にならない」というのは、言い換えれば「現時点で裁判離婚は認められない」というだけの話です(そのことは、それはそれで重要なことではありますが)。離婚原因がないからといって離婚しなくて済む(あるいは離婚できない)というわけではありません。妻からの離婚の申し出に対し、夫が離婚に応じざるを得なくなる可能性は十分にあります。
夫はなぜ離婚に応じざるを得なくなるのでしょうか。仮に夫が離婚の話し合い(離婚協議、離婚調停)に徹頭徹尾応じないとします。しかし妻には、別居を開始して婚姻破綻状態を作り出し、裁判離婚が将来認められるべく行動するという選択肢があります。さらに妻には、婚姻費用分担調停を申し立て、早期に離婚に応じないなら(離婚まで)婚姻費用を払えというプレッシャーを掛けることもできます(夫の収入>妻の収入が前提ですが、銀行員の夫より妻の方が高収入ということはあまりないでしょう)。
仮に夫が婚姻費用分担調停を欠席するなどして話し合いに応じない場合でも、裁判官が婚姻費用の額を審判の形で一方的に決めてしまいます。そうなってしまうと、夫が婚姻費用を支払わないと、夫の給与が妻に差押えられてしまう可能性が出てきてしまうのです。もし給与が差押えられると、勤務先の銀行に裁判所から連絡が行くことになってしまいますので要注意です(「妻の婚姻費用も払わない不誠実な人間だ」というレッテルを貼られかねません)。
逆に夫としては、そこまで先を見通すのであれば、早期に離婚に応じて婚姻費用の支払期間を短くする方が良いという判断もあり得るでしょう。
ちなみに、夫が離婚に応じると申し出ても、別居して婚姻費用を貰える立場になった妻が、逆に離婚しないと言いだす可能性もあります。そのため、夫はその可能性にも注意しておく必要があります(後述)。
財産分与というのは、夫婦共同で築き上げた財産を清算する制度です。夫婦共同で築いた財産である限りは、全ての財産がその対象となります。しかし独身時代から持っていた財産や相続で得た財産は、夫婦が協力して築いたものではありませんので、財産分与の対象外です。
財産分与の対象財産としては、婚姻後に形成した預貯金、保険、車、住宅といったものが典型例です。銀行員の場合、勤務先銀行の福利厚生がしっかりしている分、高額の財産があることも少なくありません。借家であっても社宅を安価で借りているために差額を貯蓄に回せていたり、あるいは勤務先銀行や関連の証券会社で投資信託や株式を保有していたりすることも良くあります。
そして、銀行員の財産分与で問題になりがちなのが、退職金です。支給前であっても、定年退職が近いなど、近い将来受け取れる可能性が高い場合には、財産分与の対象となります。ちなみに銀行員の夫が退職金規程などを裁判所に任意に提出しない場合、勤務先銀行に裁判所が連絡を入れて問い合わせることがあります(調査嘱託といいます)。
なお、最近の調停実務においては、40代でも、別居時に退職した場合にもらえる金額を退職金規定から計算して、その金額の婚姻期間中に該当する分を分与対象とする傾向があります。銀行の場合、退職金規定が整備されていることが非常に多いため、財産分与の対象になる可能性は高いのです。
支給前の退職金についても離婚時に精算することが実務上は多いです。しかし、夫にしてみれば「退職金を自分が受け取れるのは将来なのに、妻には今支払わなければならない」ということになります。精算すべき額を夫が現実問題として今支払うことができないため、支払方法が問題になることもあります。
そこで、「退職金が将来支給された時点で精算する」ということも考えられます。現実に支給されてからの精算ですので支払うお金はあるはずです。しかし今度は、きちんと約束どおりに元夫が支払ってくれるのか、支払わなかったらどうするのかという別の問題が生じてしまいます。
そのため、たとえ本来より低額であっても離婚時に精算してしまい、後に問題を残さないという方向を希望する方も多いです。
銀行員の家庭は比較的高収入のせいか、子どもが小さいころから色々習い事をさせるなど、多額の教育費を掛けていることも少なくないようです。
具体的には養育費の額は、基本的に養育費算定表に基づいて算定されます。夫が銀行員で高収入、妻が専業主婦だとすると、養育費の額も大きくなってきます。もっとも、離婚した後の妻の状況にもよりますが、妻は離婚後もずっと無収入だという前提で算定されるのではなく、潜在的に獲得可能と思われる収入があると仮定して算定されることが多いです。
また、養育費は原則として子どもが成人するまでとされていますが、話合いで大学卒業時までとする場合も多いようです。算定表では私立学校に進学した場合の学費は考慮されていませんが、既に私立学校に行っている子がいる場合は、私立学校の学費についても考慮される可能性があります。ただし、銀行員の年収がかなり高い場合は、その分養育費も高く算定されるため、私立学校の学費分も含まれていると判断される可能性もあります。
離婚協議が進まない場合には離婚調停を申し立てることになりますが、離婚調停は平日日中に行われますので、銀行員である夫が多忙で出席できないことがあります。妻が夫に対して離婚調停を申し立てても、夫の欠席が続くといずれ調停は不成立で終了してしまうことになります。
先に述べた婚姻費用分担調停では、夫が欠席を続けると裁判官が婚姻費用の額を審判で決めてしまいますので、夫が欠席しても妻側にとっては特に問題はありません(欠席した夫にとっては、自分の言い分を聞いてもらう機会がないという不利益が出てくる可能性はあります)。しかし、離婚調停の場合はそれとは異なり、裁判官が離婚の審判をしてくれるわけではありません。離婚調停を夫に欠席され、事実上話し合いができない場合は、離婚調停は不成立となって終了し、離婚裁判を提起する必要がでてきます。
最も効果が高いのは、先に述べた「別居+婚姻費用分担調停申し立て」を進めることです。銀行員の夫は高収入ですので、妻に支払うべき婚姻費用の額も高額になるため、それに夫が耐え切れなくなるのです。
例えば、「双方の年収が夫:1200万円、妻:0円。1歳の子どもが一人いるので、妻はすぐには働けない」という場合を考えてみましょう。この場合、算定表から機械的に算定すると20~22万円の婚姻費用となります(表11、婚姻費用・子1人表(子0~14歳))。仮に夫がこの支払いに耐えつつ離婚を拒否し続けても、別居期間が積み重なればそれが離婚原因となり、ゆくゆくは裁判離婚を認めてもらえる可能性がでてきます。
この方法を取れば今すぐ離婚できるというものでは本来ありませんが、この対応が夫に与えるダメージはかなりのものです(夫婦関係の実態もないのに、いわばお金だけ取られるからです)。そのため、夫が早期に離婚に応じてくれることが期待できます。
銀行員の夫を持つ妻は比較的高い婚姻費用を請求することができます。そのため、自分から別居に踏み切っておきながら、離婚自体には応じないという態度を取ってくる場合があります(離婚すると婚姻費用を請求できなくなりますので)。
ただ、妻側としても、婚姻費用だけで生活するのは厳しいので、仕事を見つけて働き出すこともあります。その場合は、夫から、婚姻費用の減額を求めることができます。また、調停で同居を求め、妻が拒否する場合は、それを理由に離婚訴訟を提起するなどして解決を目指すのもひとつです(勝てるとは限りませんが、離婚の方向で和解できる可能性もあります。)。なお、リンク先のコラム「別居していったくせに妻が離婚しない」もご参照ください。
妻が別居したあとで銀行員の夫が転勤した場合、妻が調停を申し立てるべき裁判所は、夫の住所地を管轄する家庭裁判所となります。
そのため、夫の転勤した場所によっては、かなりの遠隔地で調停を行わなければならず、妻が出頭する場合に、交通費等の負担がかかる可能性があります(ちなみに夫が申し立てるなら、妻の住所地を管轄する家庭裁判所で調停をやることになります)。
銀行員の夫が多忙で、家事や育児を手伝えないということはしばしばあります。それ自体がただちに離婚原因になるわけではありませんが、妻が別居して婚姻費用分担を求めてくると、夫は窮地に立たされます。夫が多忙を理由に離婚協議に応じない場合にも、同様の対処が効果的です。
銀行員の離婚問題では財産分与や養育費が比較的高額になる点が特徴の一つです。財産分与の中でも退職金が大きくなる傾向にありますので、離婚時に精算するのであれば、夫がそれを支払えるかどうかが問題となります。また、妻との収入格差が大きいことが多く、夫の支払うべき養育費も高額になりがちです。
銀行員が(あるいは銀行員との)離婚問題を独力で進めていく前に、どのような問題点が出てきそうなのか、どうすれば有利な解決ができそうなのか、まずは弁護士に相談してみることをお勧めします。