離婚コラム
夫が単身赴任中で妻が離婚を希望している、あるいは逆に単身赴任中の夫から離婚を切り出された、というご相談も頂きます。夫婦お互いに納得して夫が単身赴任をしている場合というのは、単なる別居とは異なります。しかし、現実問題として生活の場が離れており顔を合わせる機会も少ないですので、気持ちがすれ違ったままになることも多々あります。
単身赴任中の夫との離婚手続きでは、どのような問題があるのでしょうか?
なお、現実には単身赴任しているのは夫であることが多いですが、逆に妻が単身赴任している場合も同様に考えられますので、その場合は夫と妻とを入れ替えてお読みください。
単身赴任している夫が浮気して第三者と不貞するというのは非常に多いパターンですし、これを理由とした妻からのご相談も多いです。
夫が現地妻と二重生活をしているというほどではなくても、いわゆる風俗通いをしている場合であっても不貞に該当することがあります。後者の場合ならまだしも、前者では夫の愛情自体が別の女性に向かっている(別の女性と家庭を持とうとしている)ということになりますので、妻が離婚を決意するのも当然といえるかもしれません。
なお、不倫(不貞)慰謝料を請求したい側の一般的な問題については、リンク先もご参照ください。
夫が単身赴任中の妻に恋人ができたというパターンもあります。夫の立場を考えるとやるせない気持ちになる部分もありますが、実際のご相談では意外に多いです。
離婚を考える理由が何であれ最終的には「気持ちが切れた」ということに行きつくのかもしれませんが、「単身赴任している夫はほとんど帰ってこない、セックスレス以前に夫婦としての実態もない、自分はどうしてあの人と夫婦でいるのだろう?」と考えてきだすと、婚姻関係継続への気持ちが切れてしまうこともよくあるようです(こういうときにかすがいとなるのが子どもなのかもしれませんが)。
先に述べた「妻が離婚を考えるきっかけ」ですが、単身赴任している夫にしても、同じような悩みを抱えていることは多いです。妻から離れた一人きりの生活、たまに帰っても子どもが全然懐いてくれない、給料を入れることだけしか期待されていないのなら、養育費は払うからいっそのこと別れて新たな人生を歩みたい、というような悩みも多いようです。
もっとも、単身赴任して一人暮らしをしている状態は、「嫁や子どもから解放されてのびのびできる」と夫が感じられる状態でもあります(夫自身の考えようによっては、ですが)。にもかかわらず、あえて正式に離婚を切り出してくるということは、実は別の女性の影があったりするのかもしれません。
あなたの側にも色々な言い分や悩みはあると思います。しかし、それはそれとしてあなたと同じように夫の側も悩んでいるのだということを真摯に受け止め、話し合っていく必要があるでしょう。
もちろん、あなたが言いたいことを言わずに我慢しろという意味ではありません(言うべきことがあるなら、それを黙っているべきではありません)。そうではなくて、言い方やタイミングを考えて言うべきだということです。もし、夫から離婚を切り出されたときに感情を爆発させてここぞとばかりに言いたい放題言ってしまうと、「やっぱり一緒にはやっていけないな・・」と思われてしまい、ますます修復が遠のいてしまうことになります(なお、関係修復についてのコラムも合わせてご覧ください)。
お互いが納得するなら離婚協議を電話だけでさっさと済ませるということもありうるかもしれませんが、その場合、例えば離婚後に夫が養育費を支払わなくなった場合どうするのか、といった点に不安が残ります。そうした不安を解消するには、公正証書で離婚協議書を作っておくことが考えられます。
もっとも、公正証書を作るには双方が公証役場に出頭することが必要ですし、そもそも夫婦同士で離婚協議をする場合、電話だけではなく対面できっちり話をしなければ話がまとまらないということも多いです。離婚をしたくない側としては会う機会がないことを理由に話し合いを引き伸ばしてくることがあり、なかなか話が進まないこともよくあります。
離婚調停を申し立てる裁判所は、原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所となります。
仮に妻が東京に在住、夫が大阪に単身赴任中のときに妻が離婚調停をしたい場合であれば、大阪家庭裁判所に申し立てることになります。そして、離婚調停は原則としてご本人自身が裁判所に出向く必要がありますので、その時間や交通費等がかさむことになります。実際問題として、単身赴任中の夫と離婚したいという場合、一番ネックになるのはこの点です。
逆に単身赴任中の夫から離婚を切り出されている場合であれば、妻の住所地で調停を行うことになりますので、その分だけ夫の負担が大きくなることになります(妻からみれば「地の利」があるわけです)。
離婚裁判については、自分の住所地を管轄する家庭裁判所で訴訟を提起することができます。先の例では、東京に住む妻が、大阪に住む夫に対する離婚訴訟を東京家庭裁判所に提起することができるわけです。
そうすると、夫は弁護士をつけるか、あるいはわざわざ大阪から東京に出てこないといけないという負担が発生しますので、あなたにとっては有利になります。逆に、夫が離婚を請求してきている場合でいえば、夫は大阪家庭裁判所で訴訟を提起できますので、調停のときのような「地の利」はなくなります。
離婚調停を経ないで離婚訴訟を提起した場合、裁判所が「調停にします」という決定をします。
上記の例で、妻が調停を経ないで東京家庭裁判所にいきなり離婚訴訟を提起した場合、東京家庭裁判所が「大阪家庭裁判所で調停をしなさい」という決定を出すことになります(例外もありますが)。
単身赴任中の夫との離婚問題で、しばしば問題となる内容があります。
夫の単身赴任が長く続くと、単身赴任先の近くに別の銀行口座を開くなど、妻が知らないうちに財産を蓄積している可能性があります。このように、夫が例えば給与振込口座以外に財産を持っていた場合、それを探し出せるかがしばしば問題になります。実際問題としてなかなか発見は難しいことも多いですが、給与振込口座から怪しい振込、振替などがあればそこから判明することもあります。
その他、妻の住む家に郵便物が夫あてで届くこともありますので、どこから届いているのかチェックしておくなど、出来るだけの証拠収集をしておく必要があります。
夫が単身赴任している場合に離婚の内容で問題になりがちなのは、財産分与の基準時をいつにするかです。つまり、「いつの時点で存在した財産が、財産分与の対象になるのか」ということです。例えばすでに夫婦仲がかなり悪化している段階で夫が単身赴任となり、その後にあなたが離婚を請求して財産分与が問題となる場合、どの時点を基準に計算するのかで揉めることがあります。
一般的には、婚姻破綻時や別居開始時点が財産分与の基準時となりますが、単なる別居と単身赴任とは異なりますので、単身赴任開始時が基準となるわけではありません。だからといって離婚を請求した時点が基準となると決まっているわけでもありません。理屈から言えば「夫婦共同で財産を築き上げる協力関係が消滅した時はいつなのか」を考え、その時点が基準時になるということになります。
夫が単身赴任中に、夫婦のどちらかが離婚をしたいと希望することがあります。その場合、まずは離婚協議を求めることになりますが、遠隔地のためなかなか話が進まないこともよくあります。
もし離婚協議がまとまらないなら、離婚を求められる側の住所地で調停を申し立てることになります。そのため、離婚を求める側としては遠い地の裁判所まで赴く労力や交通費といったコストがかかってしまいます。離婚裁判については離婚を求める側の住所地で提起できますが、原則としてその提起前に調停をしておかなければなりません。
あなたが離婚を求める側なのか求められている側なのか、相手方はどういう意向を示してきているのか、そもそもどこに単身赴任していてどれだけ離れているのか等々、色々な事情を踏まえたうえでどのように進めていくのがよいか、弁護士に相談してみるのをおすすめします。