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離婚コラム

はじめに

離婚に先立って夫婦が別居することもよくありますが、「妻が家を出ていくときに、管理していた銀行口座の通帳と印鑑を持ち出していった」「家電をいくつか持っていかれてしまった」というような事態が起こることがあります。このように、別居していった側が夫婦の実質的共有財産を勝手に持ち出してしまった場合、どのように取り扱われるのでしょうか。また、持ち出されてしまったらどうしたらいいのでしょうか?結論から言えば、最終的な財産分与額を決める際に持ち出された財産分を清算するというのが、実務での通常のやり方です。

財産分与の対象は、あくまで別居時の財産が基準です。

夫婦共同で形成した財産を清算するのが財産分与であり、財産形成についての夫婦の協力は別居により消滅することになります。そのため、財産分与の対象は、別居時の財産が基準となります。

持ち出した財産の金額を考慮して、分与額を決定します。

例えば、「別居時(持ち出す前)の夫婦共有財産として、夫名義の5000万円の預金があった。このうち普通預金であった3000万円を、妻が勝手に持ち出してしまった」という場合を考えてみます。

この場合、分与割合が50:50であることを前提とすれば、夫婦が2500万円ずつを取得すべきことになりますので、妻が500万円を余分に取得していることになります。したがって、もしこれ以外に共有財産がないのであれば、妻が夫に500万円を返還すべきことになります。もし他の共有財産があるのであれば、妻がそれ以外の財産の分与を受ける際に、500万円が控除されることになります。

超過分1100万円の支払いを妻に命じた事例

妻が夫に離婚訴訟を提起して財産分与を求めた事案の控訴審判決です。妻が別居時に3610万円を持ち出していたのですが、妻の受けるべき財産分与額は2510万円であり、差額にあたる1100万円を夫に返還せよ、という判決がなされました(東京高裁平成7年4月27日判決)。

勝手に持ち出して行ったことについて、損害賠償を請求できないの?

基本的にはできない、と考えられています。

夫婦の協力で形成した共有財産を勝手に持ち出されたわけですから、持ち出された側としては、許せない気持ちになるのは当然です。では持ち出した側に対して損害賠償を請求できるのかというと、特段の事情がない限りできない、とした判決があります。

損害賠償請求を否定した事例

妻が別居時に国債などを持ち出したことに対して、夫が損害賠償を求めた事案です。 裁判所は、「持ち出した財産が将来の財産分与として考えられる対象、範囲を著しく逸脱するとか、他方を困惑させる等不当な目的をもって持ち出したなどの特段の事情がない限り違法性はなく、不法行為とならない」として、損害賠償請求を否定しました(東京地裁平成4年8月26日)。

財産を持ち出された!どうしたらいい?

利用停止の手続きをしましょう。

クレジットカードや通帳などを持ち出されてしまった場合、そのままにしておくと通常の生活費を超えて使われてしまう可能性があります。金融機関にすぐ連絡して、利用停止の手続きを済ませておきましょう。

何を持ち出されたのかを特定しましょう。

財産分与で最終的に清算するにしても、何を持ち出されたのかが分からないとどうしようもありません。財産の形態としては、普段から相手方に渡していたもの(ex.給与振込口座の通帳・カード)、夫婦いずれも利用可能であったもの(ex.高価な自転車)、あなたが管理していたはずのもの(ex.あなたの手提げ金庫に入れていたもの)の3つに分かれます。それぞれについて不審な点がないかよく確認しましょう。

別居していった相手方への対応は?

離婚手続きへの準備を

別居して財産を持ち出していったわけですから、通常は離婚手続きを前提とした行動のはずです。別居後しばらくして、離婚協議が申し入れられたり離婚調停が申し立てられたりしてくることが多いでしょう。そのため、あなたの側でも、離婚手続きへどう対応していくか、準備を進めていく必要があります。

相手方が離婚手続きを進めてこない場合は?

あまりないケースかとは思いますが、持ち出して別居したまま離婚手続きを進めてこないこともありえます。この場合にあなたが婚姻関係継続を希望するのなら、あなたの側から同居を求める円満調停を申し立てて、その中で持ち出した財産の処理についても話し合っていくという方向性が考えられます。

まとめ

別居時に持ち出された実質的共有財産については、最終的には財産分与の中で清算される形になります。持ち出した側のものになるわけではありません。前記裁判例に従えば、通常は考え難いながらも一定の場合には損害賠償請求が認められる余地もありうるでしょう。そもそも何を持ち出されたのかが不明では対処のしようがありませんので、きちんと確認しておくべきです。

実質的共有財産を持ち出した上で別居に踏み切ってきたということは、相手方の離婚意思は相当固いと推察されます。あなたが離婚に応じるにせよ拒否するにせよ、どのように対応すべきか準備しておく必要があります。

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