離婚コラム
たとえば夫が離婚届へのサインを同意していないのに、妻が勝手に記入して役所に提出したとします。この場合、妻は刑事罰を科される(=懲役や罰金を食らう)可能性があります。離婚は無効であり、仮にその後妻が別の男性と婚姻していたとすると重婚状態(=婚姻が二重に存在する状態)が発生することになります。したがって、いくら早く離婚したいとしても、絶対に勝手に離婚届を出してはいけません。きちんと話し合い(協議・調停)や裁判の手続きを取っていかなければなりません。
逆に、離婚届を偽造され勝手に提出された側からみても色々と面倒な事態が生じてしまいます。そのため、勝手に離婚届を出されかねないという心配がある場合には、念のため事前に不受理申出をしておくべきです。
役所に提出する目的で勝手に離婚届に署名押印すると有印私文書偽造罪が成立します。そしてこれを実際に提出すると偽造私文書行使罪が成立します。さらに提出によって戸籍に離婚の事実が記載されますので公正証書原本不実記載罪も成立します。ちなみにこれらは決して軽い犯罪ではなく、懲役(=刑務所で労働させられる刑罰)を科される可能性もあります。なお、後に述べる重婚状態となる場合には重婚罪も成立します。裁判例では、離婚届を偽造し提出したケースで、有印私文書偽造・同行使、公正証書原本不実記載・同行使、重婚罪が成立して懲役2年、執行猶予5年とされたものがあります(秋田地裁能代支部平成17年2月16日判決)。
妻が離婚届を偽造して提出した場合、夫には離婚を届け出る意思さえありませんので、協議離婚は無効となります。その結果、夫との婚姻関係は従前どおり続いているということになります。もっとも「無効だからそのまま放っておけばよい」というわけではありません。離婚届が受理されたことによって、戸籍が別々に分かれた状態になっているからです。元どおりの同じ戸籍に戻すためには裁判が必要になります。
読んで字のごとく婚姻が重複することです。ちなみにテレビニュースなどでは、妻子ある男性が他の女性と結婚式を挙げた場合を「重婚」と表現することがあるようですが、民法上・刑法上の重婚というのは、あくまで法律上の婚姻が重複する状態のことをいいます。
仮に離婚意思がなく協議離婚が無効でも、役所が離婚届を受理してしまえば、妻は別の男性を夫とする婚姻届を出すことができてしまいます。というのも、役所の担当者は書類しか見ることができませんので、「前婚(前の婚姻)の夫に離婚意思がなく離婚が無効だ」ということは、全く分からないからです。そうなると、前婚は(離婚が無効なので)有効に存在しており、しかも後婚(後の婚姻)も戸籍上は一応有効に存在している形になってしまうわけです。
後婚を取消す(=前婚を有効な婚姻として存続させる)ことで重婚状態を解消することになります。ちなみに後婚が離婚で解消された場合、特段の事情がない限り、後婚の取消しを請求することはできなくなります(離婚と婚姻取消しは効果がほぼ同じなので重ねて取消す意味がないからです。最高裁昭和57年9月28日判決)。
離婚届を勝手に偽造して提出すると有印私文書偽造等の罪に問われることになります。また偽造がバレずに受理されたところで離婚は無効ですので、デメリットばかりでメリットは全くありません。付け加えれば、偽造した離婚届を提出したことで損害を受けたことを理由として、損害賠償請求を受ける可能性も出てきます。離婚をしたいのなら、協議・調停あるいは裁判の手続きで、きちんと合法的にカタをつけなければなりません。
逆に「相手方に勝手に偽造・提出されかねない」という状況の方からいえば、事前に不受理申出をしておくべきです。