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離婚コラム

はじめに

50代~60代女性の場合、夫の定年が間近に迫り、あるいは既に定年後の生活に入っていることも多いです。この年代の離婚問題は、どちらかといえば妻の側から離婚を切り出すことが多いように見受けられます。「熟年離婚」という言葉で取り上げられることがありますが、夫に退職金が入ってきたタイミングで離婚を切り出すというケースは少なくありません。

以下では、①50代~60代女性に離婚問題が持ち上がる理由と、②女性が離婚したい側なのか、離婚を切り出された側なのかに場合を分けて、離婚手続きで問題になりがちな点についてまとめています。

50~60代女性に離婚問題が持ち上がる理由

50代~60代女性からの実際のご相談で多いのは、次のようなものです。

「離婚の最後のチャンス」

50代~60代女性の場合、夫から離婚を切り出されたというよりは、自ら離婚を希望してご相談に来られる方のほうが多いように見受けられます。「何十年も夫のワガママに耐えてきたが、子どもも独立したしもう我慢したくない」「夫と離婚するなら今しかない」というような声は少なくありません。

夫からみれば「退職金が入ったこのタイミングで離婚を切り出すなんて」「定年でこれから二人の生活が始まると思ったのに裏切られた」ということで、離婚に強く抵抗することも非常に多いです。そのため、離婚を決心したのであれば、強い意志で手続きを進めていくことが必要です。

浮気・不倫

夫から「新たな恋人ができたので離婚してほしい」と切り出された、というご相談も多いです。50代~60代の場合、「お互い、愛情は薄れてしまっているので、別れること自体は仕方ない」という場合も多いのですが、男女としての愛情が薄れてしまっている場合でも、離婚後の生活や収入などを考えると「はいそうですか」と応じるわけにもいかないことのほうが多いでしょう。したがって、離婚を前提とした話し合いをする場合でも、生活を確保するための経済的な保障をどこまで得られるか、交渉の進め方が重要になります。

参考:夫の不倫相手への慰謝料請求

性格の不一致

50代~60代女性に限った話ではありませんが、この年代の離婚相談でも問題になることは非常に多いです。1つ1つをみれば些細なことでも、それが数十年にわたって積もってしまい、ご本人としてはこれ以上我慢できないというケースもありますし、客観的にみても、夫の態度によくここまで耐えられたと感じるようなケースもあります。

また、裁判での離婚は難しいと考えられるようなケース(明確な離婚原因がないケース等)もしばしば見受けられます。しかし、そのような場合でも、あきらめずに、戦略的に離婚手続きを進めていくことで、離婚を実現できる可能性は十分あります。

50代~60代女性が離婚したいときの注意点は?

そもそも離婚すべきかどうか

夫と毎日顔を合わせる生活に不安を感じているような場合は、離婚すればその不安から解放されることになります。すでに独立した子どもと良好な関係を構築できている場合なら、夫と離婚したとしても、(精神的にも金銭的にも)子どもが支えてくれることもよくあります。とはいえ、子どもには子ども自身の人生がありますので、やはり子供には頼りたくないという場合も多いと思います。しかし、一旦離婚してしまえば夫(やその親族)からの援助等は期待できなくなります。

50代~60代女性が離婚する場合、一人で老後を生き抜く覚悟をもち、そのためにしっかり備えることが大切です。口で言うのは簡単ですが、実際にはかなり難しいことですので、離婚を切り出す前にきちんと考えておくことをお勧めします。

相続と離婚を天秤に…

50代~60代女性が離婚する際に考えておかなければならないこととして相続の問題があります。仮に夫が死亡したとして、あなたがその時までに離婚していなければ法定相続人となりますが、離婚していれば法定相続人にはなりません。

お金の面だけ考えるならば、夫の遺産を相続する場合と、離婚して財産分与を受ける場合を天秤にかけて検討すべき、とも言えます。ただ、実際は、人の寿命は分かりませんので、そこまで待てず、離婚を選択する方が多いようです。

離婚原因について

仮に夫が話し合いでの離婚を拒否したとすると、裁判離婚を認めてもらうためには「夫に離婚原因があること」が必要です。離婚原因の典型は夫の不貞(=他の異性と肉体関係を持つこと)ですが、一般的には「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたるかどうかが問題となります。

話し合いで離婚するためには離婚原因は必要ではありません。しかし、離婚原因が夫にあれば、話し合いを有利に進めることができる一方、離婚原因がない場合は、話し合いで夫に離婚に応じてもらう必要があるため、交渉が難航する可能性が相対的に高くなります。もっともその場合でも、別居した上で婚姻費用請求を進めるなど、手続を進めることによって、夫が早期に離婚に応じることもあります。

財産分与

50代~60代女性の場合、財産分与を受けた財産を離婚後の生活の糧とする必要性は、他の年代の場合に比べて高いです。夫名義の自宅、退職金、株式・投資信託など、夫がどのような財産を持っているのかについて、予めきちんと把握して、その根拠資料の写しを確保するなどして、正当な分与を受けられるよう努力する必要があります。

あなたは離婚を希望している一方で夫は離婚を考えてすらいなかったという場合には、財産分与の争いも深刻になることが多いです。夫としては、急に離婚となって面倒を見てくれる人がいなくなるだけでも不安なのに、さらに財産分与で老後の蓄えもなくなってしまうのでは生きていけないと感じてしまうからです。夫に不貞などの明確な離婚原因がある場合ならともかく、落ち度は特にないという場合には、離婚条件を多少譲歩する等の対応が必要になることもあります。

年金分割

年金分割の制度をかいつまんで説明すれば、「夫が厚生年金を●●円支払ってきた」という役所の記録について、そのうち▲▲円については妻が支払っていたものと記録し直す(=「夫が厚生年金を(●●円-▲▲円)支払ってきた」と記録し直される)という制度です。この結果、厚生年金をより少なく支払っていた側は、将来の厚生年金の給付額が増えることになります。ちなみに、同じ「年金」でも厚生年金基金や確定拠出年金などについては、年金分割という手続きではなく財産分与の中で考慮することになります。

50代~60代女性が離婚を切り出されたときの注意点は?

離婚に応じるべきかどうかを落ち着いて考えましょう。

離婚を切り出されたときの気持ちには、人によって様々です。「どうしても夫婦仲を修復したい」から「こっちこそ離婚したい」まで色々あると思いますが、まずは落ち着いて、離婚に応じるべきかどうかをしっかり考えましょう。

50代~60代のあなたに対して離婚を切り出してくるような夫と、婚姻関係を続けるとしても、穏やかな生活は期待できないかもしれません(もちろん夫の性格にもよると思いますが)。

実際問題として最も注意すべきなのはお金の面です。結婚していれば、婚姻費用(生活費)を請求することができます(収入があなた<夫であることが前提です)。しかし、離婚してしまうと請求することはできなくなります(財産分与などを得られることにはなりますが)。「縁の切れ目がカネの切れ目」になることは否定できませんので、離婚に応じるのであれば、正当な金額の分与を受けられるよう努力することは非常に重要です。

夫の浮気が判明しているときは?

夫が他の女性と肉体関係を持った証拠があれば、夫は有責配偶者ということになります。有責配偶者が訴訟で離婚を請求してきたとしても、一般的に裁判離婚はなかなか認められませんので、離婚を断固拒否しつつ、婚姻費用を受領し続けるのも一つの方法です。また場合によっては、「離婚に応じる代わりに財産分与を上乗せしてほしい」等と交渉する方法も一つです。

夫が浮気をしているのはほぼ確実なのに証拠は何もないという状況では、夫を有責配偶者として扱ってもらうのは難しいです。そのため、肉体関係があったことを示す証拠を集めておくことが重要になります。

円満調停について

調停で話し合って夫婦関係修復を図るという方法もあります。もっとも、夫が離婚を強く希望しており修復意思が皆無という場合は、調停を申し立てても夫の意思は変わらないと考えられます。したがって、夫に多少でも迷いがある場合以外は、あまり効果的な手段とは言えません。

まとめ

一般論として50代~60代女性が離婚を考えるときにまず懸念を抱くことが多いのは、離婚しても、今さら働けない、経済的に苦境に立たされるのではないかという点です。夫婦に目立った財産がないという場合には、特に深刻な問題となります。また、夫に特有資産がある場合などは「自分よりも先に夫が死ねば遺産が入るはず」という考えが生じて、離婚に踏ん切りがつかないことがよくあるようです。

また、50代~60代女性が実際に離婚手続きを進めていくうえでは、財産分与が問題となることが多いです。特に夫が離婚を考えておらず明確な離婚原因もない場合には、当人同士の話し合いでは交渉が進まない可能性が高いため、弁護士を入れて交渉することも検討すべきです。

反面、50代~60代の世代では、親権や養育費などが問題になることは比較的少ないです。そのため、きちんと条件を決めて離婚すれば、その後に問題が生じる可能性は小さいと言えます(「先月分の養育費が入金されていない!」と連絡したりする必要はありませんので)。

夫婦生活の歴史や事情、それぞれの立場などは、事案によって様々です。あなたが離婚を希望する側なのか切り出された側なのか、切り出された側に離婚原因はあるのかどうかなど、個別の事情によって交渉の方向や進め方は異なります。また、そもそもあなたが何を優先して生きていきたいのかという点も、今後どのように対応すべきかを考えるうえで非常に重要です。離婚を真剣に考えている、あるいは離婚を切り出されてしまったという状況であれば、まずは経験豊富な弁護士に相談の上、今後の方針について検討してみてはいかがでしょうか。

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