慰謝料コラム
不倫で略奪というと穏やかではありませんが、不倫関係を続けるうち、交際相手が配偶者と別居して、あなたのもとに転がり込んできて同棲中、というようなケースも少なくありません。その後、交際相手の配偶者(=略奪された人。以後、「相手方」と表記)から不倫慰謝料を請求された場合、どうなるのでしょうか。
一般論としては、年頃の男女が2人で同棲していれば、肉体関係があっても不思議ではない、という経験則があることは否定できません。
同棲と一言でいっても、いわゆるルームシェア・シェアハウスといったものもありますので、「物理的に一緒に住んでいれば即肉体関係が認められ、反論の余地はない」というわけではありません。ただし、「部屋をシェアしているだけなので肉体関係はない」と反論するだけでは、(それが事実であろうとなかろうと)説得力に乏しいと言わざるを得ません。特に相手方から、あなたと交際相手が同棲する以前から親密であったことを示す証拠などが提出されると、「従来から親密であった上に同棲を始めたのだから、肉体関係はあるはず」と裁判官が考える可能性は高くなるでしょう。
不倫の末、略奪して同棲するに至っている場合は、不倫慰謝料額は高くなる傾向にあります。ただし略奪する前に婚姻関係が破綻していれば、不倫慰謝料を支払う義務はありません(=慰謝料額ゼロ)。もっとも既に婚姻関係が破綻していた場合、そもそも略奪とは言えないかもしれませんが・・・。いずれにしても、不倫・略奪と婚姻破綻のどちらが先であったのか、という点で激しい争いとなることもあります。
略奪した交際相手と同棲しているということは、「交際相手と相手方との婚姻生活の平和を、あなたが日々侵害し続けている」と裁判官に評価されてしまいます。したがって、例えば「不貞行為を2カ月間続けたが今は交際解消済」というケースと比較すれば、略奪・同棲中の場合のほうが、どうしても不倫慰謝料額は高くなってしまいがちです。2カ月で解消した場合と比べれば、現在同棲中の方が侵害期間は長い(侵害頻度が高い)からです。
また、「不貞行為2カ月間、今は交際解消済。相手方は夫婦で同居しており離婚しない」というケースと比べると、「略奪して同棲を続けていることで、あなたが実質的に婚姻を破綻させた」と裁判官に評価されてしまう可能性が高くなります。相手方が同居中の場合なら「同居しているから破綻していない」という反論も考えられますが、そのような反論ができなくなるからです。その結果、不倫慰謝料の額は高くなってしまう傾向にあります。
もっとも、不倫より前に婚姻関係が破綻していた場合には、形式的に略奪したように見えても、不倫慰謝料を支払う義務はありません。この場合、保護すべき婚姻生活の平和が存在していないからです。
婚姻破綻後の不倫であるという反論は、なされないほうが珍しいというくらいよくある反論です。したがって、具体的事情を挙げて説得的に述べない限り、(言葉は悪いですが)裁判官に聞き流されてしまいます。典型例は、交際相手と相手方が離婚前提に別居を開始した後で不倫を始めた場合です。なお、単なる単身赴任というだけでは、形の上では別居だとしても不十分です。
もっとも、不倫慰謝料金額を裁判官が決めるにあたっては諸々の事情が考慮されます。そのため、厳密な意味で破綻といえるかどうか微妙な場合でも、夫婦仲が相当悪かったことを示す事実を説得的に主張することができれば、不倫慰謝料額をゼロにはできないまでも減額材料にはなりえます。すなわち、仮にこの不倫がなかったとしても、既に夫婦仲が悪く、離婚に至る可能性が高い状況だった場合は、不倫・略奪による損害が小さいと判断され、慰謝料が減額される可能性があります。
妻が同棲の差止めを求めて女性を訴えたという事件があります。この事件では、同棲の差止めは認められませんでした(大阪地方裁判所平成11年3月31日判決)。
裁判所は、「差止めは、相手方の行動の事前かつ直接の禁止という強力な効果をもたらすものであるからこれが認められるについては、事後の金銭賠償によっては原告の保護として十分でなく事前の直接抑制が必要といえるだけの特別な事情のあることが必要である」と述べたうえ、夫婦のこれまでの経緯を踏まえると、「同棲することによって…平穏な婚姻生活が害されるといった直接的かつ具体的な損害が生じるということにはならない」として、差止めを認めませんでした。
「略奪した交際相手と現在同棲している」となると、肉体関係を持った(=不貞行為をした)だけの場合と同列には扱われない可能性が生じます。略奪している・同棲しているという状況から、婚姻生活をあなたが現に侵害している・破壊した、と評価されかねないからです。
不倫・略奪が婚姻関係破綻後であれば、不倫慰謝料を支払う義務はないということになります。また、厳密に破綻後だといえなくても、関係を持つより前から夫婦仲が相当悪かったということを立証できれば、不倫慰謝料を減額するための材料となり得ます。
略奪・同棲を理由に相手方から不倫慰謝料を請求された場合には、経験豊富な弁護士に相談のうえで進めていくことをお勧めします。