慰謝料コラム
「不倫慰謝料を請求されて話し合っていたが、その件で調停を申し立てられたという手紙が裁判所から届いた。どうしたらいいの?」というご相談がたまにあります。裁判所からの連絡(調停の期日に来てくださいという呼出状)は放置していいのでしょうか?調停には一応行くべきなのでしょうか?
不倫慰謝料請求調停は、「相手方とあなたが、不倫慰謝料問題について、裁判所という場を借りて話し合う手続き」です。調停というと、いわゆる離婚調停を想起される方も多いかと思います。離婚調停では、家庭裁判所の一室で、調停委員を通じて夫婦が離婚問題について話し合います。簡単に言えば、話し合う内容を不倫慰謝料問題に変えたものが不倫慰謝料請求調停だ、と思って頂いてかまいません。離婚調停は家庭裁判所で行われますが、不倫慰謝料請求調停の場合は場所が簡易裁判所になるという違いはあります(家裁と簡裁が同じ建物に入っていることも多いです)。
ちなみに、裁判所のホームページに「慰謝料請求調停」のページがありますが、これは、元夫婦の間で離婚慰謝料について話し合う調停のことで、家庭裁判所で行われます(このコラムが対象としている不倫慰謝料請求調停とは、全く別のものです)。
「不倫慰謝料を払えという内容証明が弁護士から届いたり、裁判所から訴状が届いたりすることは聞いたことがある。でも調停ってどういうこと?」と思われるかもしれません。相手方が調停を申し立ててきた理由としては、2つが考えられます。
「不倫慰謝料を請求したいけど、弁護士に依頼すると費用が掛かるので自分で請求したい」「不倫慰謝料を請求したものの、このままだと支払ってもらえないかもしれないのでもっと強く請求したい。しかし自分で訴訟を提起するのは難しい…」「調停なら、自分の力だけでも何とかなりそう」等という理由が多いのではないかと推察されます。
訴訟では、仮にあなたが「不倫はなかった」と否定したとすると、相手方は、あなたが肉体関係を持った事実などを証明する証拠(ex.あなたと交際相手がラブホテルに入ったところの写真)を、裁判所に提出しなければなりません。「そんなはっきりした証拠はないが、どうも怪しい」という状況だと、相手方は自信をもって訴訟を提起できません。そのため、訴訟を避けて調停を申し立ててきた、という可能性があります。相手方としては、仮に証拠がなくても、不倫慰謝料請求調停の場であなたが払うと言ってくれさえすれば、それで目的を達成することができます。
相手方がどこまでの証拠を握っていそうなのか、を慎重に判断して決める必要があります。
正直、はっきり「行かなくてもいいです」とは言いにくいのですが、行かない場合のリスクは限定的と言わざるを得ません。不倫慰謝料請求調停の期日当日にあなたが行かなければ、話合いができないため、調停はいずれ不成立で終了します(ちなみに、欠席裁判で●●円払えと言われてしまうわけではありません)。
もっとも調停が不成立となると、相手方は今度こそ弁護士をつけて訴訟を提起してくるかもしれない、というリスクがあります。また、相手方が本人で頑張って訴訟提起してくる可能性もゼロではありません。ただし、相手方が証拠を確保していない場合は費用をかけてまで訴訟提起しない可能性のほうが大きいと考えられます。
調停は、双方が合意に至れば、合意内容が調停調書となって成立します。調停合意(和解)の内容を記した調停調書は債務名義となり、これには極めて強い効力があります。すなわち、もしあなたが約束どおりに支払わない場合は、給与の差押えなどの強制執行を受けてしまう可能性もあります。したがって、少しでも納得いかない内容には合意せず、次回までに検討します等と伝えた上で、合意前に弁護士等の専門家に相談することをお勧めします。
不倫慰謝料請求調停の中で、慰謝料を払う約束をあなたがしたとします。相手方が不倫の証拠をほとんど何も持っていなかった場合であっても、あなたが調停で約束した以上は支払わないといけません。
しかし、もしあなたが調停に行かなければ、調停は不成立になっていました。そして証拠がない場合は、相手方は訴訟をあきらめざるを得ず、結果的に不倫慰謝料問題を回避できたかもしれません。
不倫慰謝料調停に行く際は、予めきちんと対応方法を考えてから行くことをお勧めいたします。できれば、弁護士等の専門家に相談していから行く方が安心だと思います。
不倫慰謝料請求調停に出席するメリットですが、調停委員を介して、相手方がどのような不倫の証拠を握っているかをうかがい知ることができる可能性があります(調停を介さず相手方と直接交渉している段階では、どういう証拠があるのかを明らかにしてこないことが多いです)。
また、あなたにそれなりの言い分がある場合は、そのことを調停委員に説明し、調停委員の理解を得ることができれば、調停委員が低額での和解を勧めてくれるかもしれません。低額での和解に相手方としては納得しにくい部分もあるかもしれませんが、仮に訴訟したとしても、あなたからそれなりの反論が出てくることを理解しますので、最終的に和解に応じてくる可能性もあります。
したがって、不倫慰謝料問題について、既にあなたが事実を認めており、または、相手が明確な証拠を確保している場合で、本人同士で解決したいという場合は、調停に出席するのもひとつかもしれません。
不倫慰謝料問題をきちんと解決したいなら、弁護士に依頼する方が望ましいです。弁護士は不倫慰謝料請求調停には応じずに相手方との話し合いで示談できないかを試みる場合が多いと思われます。その上で話がまとまらない場合は、相手方からの訴訟提起を待つか、場合によってはこちらから訴訟を提起するかになるでしょう(もちろん、必ずそうするというわけではありませんが)。
不倫慰謝料を請求された方から依頼を受けた弁護士の立場から言えば、問題をなるべく早期に適切に解決するために、調停には出ないことがほとんどです。そもそも調停は月一回程度しか開かれませんし、双方納得して合意しない限り解決に至りません。それよりも書面や電話で話し合いを早急に進めるほうが、あなたと相手方双方にとってメリットがあるからです。
弁護士としては、不倫慰謝料請求をしてきている相手方に対して、もし話し合いに不満があるなら訴訟を提起するように促します。場合によっては「不倫慰謝料を支払う義務はない」という訴訟を、こちらから提起することもあります。
また、相手方によっては、あなたが弁護士をつけたことを知って、不倫慰謝料請求を事実上断念することもあります。ただし請求を受けているあなたの側としては、その期待をし過ぎるのは禁物です。そういうこともなくはない、という程度で思っておいてください。
不倫慰謝料について話し合っていたのに調停を突然申立てられてしまった場合、まずは、「相手方が、なぜわざわざ自分で調停を申し立ててきたのか?」という点を考えてみることをお勧めします。多くの場合、①費用を支払ってまで弁護士をつけたくない場合、②あまり証拠がないので訴訟に踏み切れない(あるいは弁護士から依頼を断られた)場合のどちらかが多いと考えられます。あなたが、合理的な金額まで減額したい場合は、相手方の認識や相手方が確保している証拠について、把握することも重要です。
調停に出ることも方法の一つですが、相手方がどこまでの証拠を握っているのかを慎重に検討し、メリットとデメリットをよく比較してからにすべきです。
不倫慰謝料問題をきちんと解決したいなら、あなたの側で積極的に弁護士をつけて対応していくことをお勧めします。
参考:不倫慰謝料を請求された