慰謝料コラム
不倫して肉体関係を持った相手の配偶者から、「慰謝料1000万円を支払え。嫌なら会社や家族に不倫をばらす」などと脅迫されたりすることも見受けられます。
不倫をばらすと言われると動揺してしまうのも当然ではありますが、相場を大きく超える金額の慰謝料を合意して後々困るのは目に見えています。仮に約束どおり支払えなかった場合や、そうでなくても折に触れて再度脅迫され続ける可能性も極めて大きいですので、迂闊な合意をすべきではありません。できれば弁護士に依頼して対応すべきです。
一般論として、配偶者が不倫して不貞行為をする相手が職場の同僚、ということも非常に多いです。「そのまま職場に居られるといつまた肉体関係を持つかも分からない」ということで、人事部や社長にばらすぞと脅してきたり、あるいは退職を迫ってきたりすることもあります。
配偶者に不貞をされてしまった自分だけがどうして苦しまないといけないのか、悪いことをしたのは不貞相手のそちらなのに、平然と暮らしているのは許せない、と復讐・仕返しをしたいという意図でなされることが多いです。
また、職場に本当にばらすつもりはなくても、慰謝料の額を吊り上げたりするためにばらすという発言がなされるということもよくあります。
別コラムでも述べましたが、不倫・不貞行為の結果与えてしまった精神的苦痛は、金銭で賠償するのが原則です。たとえ不貞が事実であっても、会社を含む第三者に対してそのことをばらされて当然だという理由はありません。
「不倫・不貞を職場(会社)にばらす」というような発言がなされた経緯、状況等にもよりますが、あなたの社会的評価を傷つけよう、極端にいえば社会的に制裁・抹殺しようという積極的害意があり、それを実行しようという意思を伝える発言ですので、「会社を辞めてほしい、会わないでほしい」という単なるお願いとは全く別次元の発言だと考えられます。
不倫・不貞が事実でも、それを職場にばらすことは、民法上の名誉棄損に該当する可能性があります。名誉棄損行為については、逆に慰謝料を請求できる可能性があります。また、刑法上の脅迫罪や名誉棄損罪となる可能性も出てきます。
弁護士が仕事を受任すると適切なタイミングで相手方に「受任通知」(=仕事を受任したという通知)を送ります。この中に、今後一切本人に連絡するな、弁護士に連絡しろ、という通常記載する文言に加え、仮に職場にばらす等した場合は逆に法的責任を追及する、と文言を記載することもあります。
また、弁護士は、仕事を委任したご本人には、受任通知を送った後に相手方から連絡があっても一切応答するなと説明しています。この結果、相手方は、ご本人から有利な条件を引き出す目的でご本人と交渉することができなくなりますし、下手なことをすると逆に責任を追及される可能性も出てきますので、ご本人への連絡が止むことも多いです。その後は、弁護士がご本人の代理人として、例えば謝罪の意思を伝える、妥当な金額の慰謝料を提案する等の活動をして、話を纏めていくことになります。
もっとも、このようなことを意に介さない相手方であれば、ご本人への連絡などを続けることもあります。その場合に連絡を止めさせることができるかというと、実際問題として難しいのが現状です。
こうした場合は、任意に交渉したとしても、まともな話し合いにならない可能性が高いため、受けた被害の証拠を整えたうえで警察・検察に告訴したり、逆に慰謝料を請求する民事裁判を提起したりすることによって、反撃していくことになります。このような場合は、ご不安が大きくなることもあると思いますが、ご自身を守るために、割り切って対応していくしかありません。
不倫・不貞行為を職場にばらされたことによって損害を受けた場合、損害賠償請求をし返すことが考えられます。
相手方が会社にばらした場合、会社としては、その申告内容が本当かどうかを調査してくることがあります。例えば、人事部の担当者が二人を呼び出して事情聴取するといった形です。
その結果、不倫関係は事実だと仮に会社が認定したとしても、社内不倫のみを理由として解雇することは、原則としてできないと考えられています。不倫の事実だけではなく、その不倫によって職場秩序が乱れた(企業運営を害した)事実や会社の信用を傷つけた具体的な事実を会社が立証できなければ、解雇は無効と判断される可能性が高いです。
もっとも例外的に、社内外に与える具体的な悪影響が大きいという場合には、解雇が有効とされることがあります。例えば、妻子ある男性運転手が未成年のバスガイドを妊娠させたことを理由として会社が男性を解雇したという場合や、妻子ある教員が生徒の母親と不倫にあったという場合に、懲戒解雇が有効と判断された裁判例があります。
不倫慰謝料の請求以外に、勤務先を変えろ、退職しろ、などと要求されることは珍しくありません。それを断ると、勤務先に不倫・不貞の事実をばらす、などと脅迫してくるという場合もよくあります。
たとえ不当な内容であっても一旦合意すると、後でひっくり返すのは難しく(あるいは面倒に)なります。弁護士が受任通知を送ることにより、相手の不合理な要求が止まることもありますので、対応に不安を感じた場合は弁護士に相談するのをおすすめします。