慰謝料コラム
不倫が判明したとき,相手方との間で慰謝料の支払いなどについて話し合い,示談書を作成することがあります。
しかし,示談書の内容や作成した経緯によっては,後に「無効だ」と言われてしまうこともあります。
そこで,どのような点に気を付ければいいのかをご説明します。
特に決まった形式があるわけではありませんが,例えば以下のような内容を含ませるのが一般的です。
・示談をする当事者の氏名,住所
・謝罪のことば
・慰謝料額,支払方法
・今後は会わない,連絡しないといった約束
・この内容でお互いすべて解決とする,後で蒸し返さないという約束
示談書は当事者どうしが約束した内容を証明するものです。したがって,サインした当事者には,示談書に書かれている約束を守らなければならない義務が生じます。
ただし,示談書の内容に縛られるのはこれにサインした人だけです。示談書の中に名前があっても,自らサインをしたわけではない場合は,示談書の内容を守る必要はありません。
なお,示談書を作成する際に,「これにサインしないと,不倫の事実を〇〇に言うぞ」といったサインを強要するような言葉を言ったり,「裁判すれば,〇〇〇万円は確実だ」など相手の誤解を招くような言動をしたりしないように気を付ける必要があります。
なぜなら,示談をする際に当事者に誤解が生じていたり脅迫行為があったりすると,後に示談書が無効となってしまう可能性があるからです。
したがって,喫茶店や図書館など公共の場で,相手が自由に発言できるような状況で作成するほうがいいでしょう。また,サインするときの状況を,相手にことわった上で録音しておくのも一つかもしれません。
示談書が公正証書で作られている場合とそうでない場合とで,効力がかなり変わってきます。
したがって,確実なものにしたい場合は示談書を公正証書にしておくことをお勧めします。
例えば「100万円の慰謝料を支払う,もし支払わなかったら強制執行を受けても構わない」という意味の文章を入れておくことで,裁判を経ずに強制執行することが可能となります。
公正証書は,不倫問題の直接の当事者ではない公証人が関与して,公証役場で作成するものです。
そのため,「100万円を支払うという内容のこの示談書は,強迫などではなく,自由な意思で作られたのだから有効だ」と後で言いやすくなります。
「300万円を支払う」という示談書を作っていたとしても,これが支払われない場合は,裁判で支払いを求める必要があります。
そしてその裁判で勝訴してからでないと,強制執行することはできません。
例えば妻が夫の不貞相手(女性)に慰謝料請求をしている状況で,「300万円を支払う」との示談書を作ったとします。
ところが,後で「あれは脅迫されて仕方なく作らされたものだ」などと言われてしまい,本当に自由な意思でその示談書を作ったのかを争われることがあります。
例えば,相手を第三者がいないところに呼び出したり,複数人で取り囲むようにして書かせたり,「書かないと勤務先に不貞の事実をばらしますよ」などと述べたりして書かせたような場合,自由な意思で書いたものではないと後から判断され,示談書の内容が無効と認定されてしまう可能性もあるので気を付けましょう。
「これできっちり解決しよう」というのが示談です。ところが,生半可な知識で進めてしまうことで,逆に後から揉めてしまうことがよくあります。これでは何のために示談書を作っているのか分かりません。
「示談書さえ取りまとめてしまえばそれで安心」とは言いきれません。相手方の自由な意思を阻害したと言われないように気を付け,さらに,そのことを後で証明できるような状況で示談書を交わすようにしておくことをお勧めします。さらに公正証書の形で作成すれば,効力の面でもより確実と言えるでしょう。