離婚コラム
離婚した後に慰謝料を請求したいというご相談もたまに頂きます。例えば「離婚はもう済ませてあるが、そもそも離婚になったのは夫のせいだから改めて慰謝料を請求したい」とか、「離婚届を出した後で元妻が不貞していたことが分かった。慰謝料を請求できるの?」というご希望を頂くことがあります。
離婚後だからといって、ただそれだけで慰謝料が請求できなくなるというわけではありません。しかし、いくつか注意しておくべきことがあります。離婚後に慰謝料を請求していきたい相手が元配偶者なのか、あるいはその不貞相手なのかに分けて解説していきます。
離婚後に元配偶者に対して慰謝料を請求するというとき、厳密にいえば①離婚慰謝料(=離婚を強いられたという精神的苦痛に対する慰謝料)と②個々の不法行為による慰謝料(=ex.平成●年●月●日に元配偶者が不貞相手と性交渉したことによって被った精神的苦痛に対する慰謝料)の2つが考えられますが、ここでは①を前提に解説していきます。通常①には②が含まれていますし、離婚後に②だけ請求したいということはまずないからです。
離婚する際に協議書を作ることも最近では多くなってきましたが、協議書の中に「精算条項」と呼ばれる条項が入っていることがあります。この清算条項というのは、協議書の中で定められたこと以外には一切お互いに言い分はありませんということを示す条項のことです。この条項は要するに「二人の間で争いになりそうなものは全て協議書の中で取り決め済みなので、後から蒸し返しません」という意味です。
そのため、この条項を含んだ離婚協議書に自分の自由な意思でサインした以上、離婚後になって離婚慰謝料を請求することは極めて困難です。
ごくシンプルな例ですが、「①夫と妻は協議離婚する。②この他には一切の債権債務無しとする。」という2つの条項の協議書を取りまとめたとすると、②が清算条項にあたります。この場合、①に基づいて夫婦は協議離婚をすることになりますが、②によれば、それ以外に夫(妻)が妻(夫)に対して請求できるものは何もない、ということになります。仮に後から離婚慰謝料を請求した場合でも、元配偶者はこの離婚協議書を盾に請求を拒むことができるということになってしまいます。
相手方の強迫など自分の意思でサインしたのではないという場合などが考えられますが、簡単に認められるものではありません。部屋に何時間も監禁されてサインするまで帰さないと言われたなど、かなり例外的な事情が必要となります。
離婚後の元配偶者に対する離婚慰謝料の請求権は、離婚から3年で時効にかかります。
仮に離婚後にこの期間を超えてから請求したとしても、元配偶者が時効を援用すれば、請求は認められないという結果に終わります。
離婚前であれば、交渉の一材料として離婚慰謝料の名目で相手方配偶者に金銭を請求することはよくあることです。
しかし、離婚後に離婚慰謝料請求を認めてもらうためには、「相手方である元配偶者の行為によって婚姻が破綻した」といえる場合でなければなりません。典型例は元配偶者の不貞行為や日常的暴力などによって婚姻が破綻したという場合であり、単なる性格の不一致というだけでは、請求はまず認められません。
先に述べたように、「相手方である元配偶者の行為によって婚姻が破綻した」場合でなければ、離婚慰謝料は認められません。そのことに関連して、仮に時効にかかっていなくても、離婚して長期間が経過していると請求が難しくなる傾向にあることに注意が必要です。
例えば、「①平成28年1月1日に離婚した。②結婚中に相手方が不貞していたことが最近分かったので離婚慰謝料の請求をしたい。今日は平成29年7月1日である。」というケースを考えてみます。
この場合、相手方が支払いに応じないと訴訟で離婚慰謝料を請求していくことになりますが、「不貞の事実を知らずに離婚したということは、相手方が不貞をしたことが婚姻関係破綻の理由というわけではないだろう(=不貞以外の理由で離婚したのだろう)」と裁判官に思われてしまう可能性があります。言葉を変えると、相手方の不貞と婚姻破綻との因果関係が無いと判断される可能性があり、そうなると、相手方の行為によって婚姻が破綻したとは言えなくなるため、相手方の不貞を理由とする離婚慰謝料も認められなくなってしまいます。また、仮に因果関係が否定されないとしても、不貞が唯一の原因となって婚姻破綻に至った場合とは異なり、最終的に認められる慰謝料も低額となる可能性があります。
離婚前なら離婚に向けた交渉材料としても使えます。例えば相手方が離婚に応じない場合、その落ち度のある行為(有責行為)を取り上げて離婚慰謝料を請求しつつ、仮に離婚に早期に応じるなら離婚慰謝料は無しにしてもよいというような形で、交渉材料とすることがあります。
しかし離婚後の請求の場合、当然ながらそのような交渉材料として使うわけではありません。「その行為に基づいてそれだけの精神的苦痛が発生したか、それを慰めるためにどれだけの慰謝料を認めるべきか」ということが裁判所ではストレートに問題とされます。仮に「相手方に一方的に落ち度があるわけではないだろう」「その程度なら大したことないだろう」と裁判官に判断されてしまいそうな場合(あるいは証拠がない場合)、離婚後に手間暇を掛けて離婚慰謝料を請求していったところで、慰謝料自体発生しないと判断されてしまう可能性があります。ちなみに「相手方に一方的に落ち度がある」と判断される典型例は、相手方の不貞行為、日常的暴力などです。
離婚後に元配偶者の不貞相手に対して慰謝料を請求するというときも、厳密にいえば①不貞によって離婚を強いられたことについての慰謝料と、②個々の不法行為による慰謝料(=ex.平成●年●月●日に元配偶者と性交渉したことによって被った精神的苦痛に対する慰謝料)の2つが考えられます。婚姻継続中ならともかく離婚後に②だけ請求したいということはまずありませんので、①を前提に解説します。
この場合も、原則としては離婚から3年と考えてかまいません。
元配偶者が不貞相手の情報を明らかにせず、その氏名などが分からないという場合があります。この場合、不貞相手が誰なのかが分かったときから3年で時効となります。逆にいえば、誰なのかが分かってから3年以内なら請求可能です(これとは別に不法行為の時から20年という制限(除斥期間)がありますが、ふつうは問題にはならないでしょう)。
ちなみに不貞相手の電話番号が分かっていれば、弁護士会照会によって住所や氏名が判明する可能性があります。ただし、電話会社によっては弁護士会照会に対する回答を拒否してくることもあります。
元配偶者とその不貞相手とは、二人共同の行為であなたに対して精神的損害を与えていることになります。この場合、元配偶者がその不貞行為の関係であなたに離婚慰謝料を支払っていると、その分だけあなたが不貞相手に請求できる金額は小さくなります(法律上は、あなたとしては、元配偶者から支払いを受けたことによって、その限度では精神的苦痛がなぐさめられている、と考えるからです)。
そのため、元配偶者からかなり高額の慰謝料を受け取っている場合、その後不貞相手に請求をしていっても、既に損害(精神的苦痛)は完全になくなっていると判断されてしまう可能性があります。
色々な理由で、元配偶者に対しては不倫慰謝料を免除することがあります。たとえその場合でも、不貞相手に対して不倫慰謝料を請求することは法律上可能です(上記の、元配偶者が慰謝料を実際に支払った場合とは取り扱いが異なります)。
ちなみに不貞相手は、あなたに慰謝料を全額支払った後で、大まかに言えばその半額を元配偶者に求償請求(=立て替えた分を払えという請求)することができることになります。
そうすると、元配偶者から、「自分は免除を受けたにも関わらず、そちらが不貞相手に請求なんかして行ったから回りまわって自分が払わされた、どうしてくれるんだ。自分は免除を受けたんだから、不貞相手から求償された分を払え」というクレームを付けられることも考えられます。しかし、元配偶者に対する免除の意思表示の中に不貞相手に対しても免除するという意思を含めていないことがふつうでしょうから、元配偶者に対する免除の効力は不貞相手には及びません(交通事故のケースに関する最高裁平成10年9月10日判決参照)。
したがって、結論的には、不貞相手が求償請求を行って元配偶者がそれを支払った時点で、慰謝料にまつわる三者間の関係は確定することになります。
離婚後であっても、元夫(妻)に離婚慰謝料を請求したり、その不貞相手に不倫慰謝料を請求したりすることは可能です。しかし、すぐに請求しないと時効で請求できなくなってしまう可能性があります。また、離婚協議書の内容や、慰謝料請求をする時期によっては、請求が認められない可能性もあります。
支払い請求の具体的なアクションを起こしてしまうと相手方も弁護士に相談するなどして対応策を練ってしまいますので、請求をする前に、まずは経験豊富な弁護士に相談することをお勧めします。