離婚コラム
妻が専業主婦の場合、夫としては「普段の家事は妻の方でやっておいてくれるだろう」と考えるでしょうし、多くの場合はそのようになっていると思われます。
しかし実際には、「専業主婦の妻が家事をしないので、家がゴミ屋敷になっている」「家事もしないし、かといって働けと言っても働かない。愛想が尽きた」というような理由で、夫から離婚したいというご相談を受けることは、決して少なくありません。
もちろん、どのように稼いできて家事をどう分担するかというのはそれぞれの夫婦で決めるべきことであり、お互いが家事の分担方法に納得しているのであれば何の問題もありません。しかし、特に妻が専業主婦である場合(夫が専業主夫である場合も同様ですが)に、妻が家事をせず家が荒れ放題ということになると、夫婦共同体を守るべく稼いできている夫としては、かなり強く不満を感じるのも当然です。
このような場合、夫からの離婚請求は認められるのでしょうか?
「妻だから家事をやるべき」とはいえないにせよ、夫婦間の合意として「夫が稼いでくる。妻は専業主婦をする」ということになっている場合であれば、少なくとも夫が毎日帰ってくる間の家事は妻がやるという合意があると考えられます。
専業主婦の妻が家事をしている形跡もないようでは、そもそも夫婦間で協力すべき義務を果たしているとはいえないと考えられます。
話し合いでは、お互いが離婚で合意しさえすれば離婚できます。合意がまとまるなら、後述の離婚原因は必要とされません。
専業主婦の妻の場合、離婚に応じるとそれ以後の収入の目途も立たないことがふつうです。妻に離婚を申し入れても、協議であっさり離婚に応じてくれることは、ほとんどないでしょう。協議段階では、法律上理由にならないようなものも含めて、妻から色々な反論が出てくるでしょう。
専業主婦なのに家事をしない妻から、離婚調停(=離婚協議の次の段階)で非常によく出される反論は、以下のとおりです。
家事をしない理由として、体調不良、うつや精神的不調を持ち出してくるのは、これまでの経験上、ほぼ確実に出てくる反論です。もっとも、それが本当なのかというと、正直なところかなり疑わしいと言わざるを得ません。
この点に関しては、家事をしない妻の側で、体調不良等が真実であることを立証すべきだと扱われます。そのためひとまずは、妻がどのような証拠を揃えてくるのかを見てから対処することになります。
家事をしないのが本当に体調不良等によるものであれば、家事以外の日常生活でも支障が出ているはずです。そのような支障は出ていない(というより日常を楽しんでいる)というような事情があれば、妻に対する一つの反撃材料になります。例えば、うつを理由に家事をしないのに、ママ友との豪華なランチを毎日楽しんでいるようだというような場合であれば、ママ友をランチに誘っているLINEのやりとりを写真撮影しておいたり、レシートを集めておいたりすることも考えられます。あるいは、精神的不調で何もやる気が起こらないと言いながらSNSを頻繁に更新しているような場合なら、更新の事実を証拠として提出できるようにしておくべきでしょう。
家事をしない専業主婦からは、これらの反論もほぼ確実に出てきます。調停委員や裁判官は、「妻は完璧に家事をして当然」とは思っていないことがよくあるようです。もしかすると「専業主婦だから家事をやるのは当然」だとも思っていないのかもしれません(もっとも、本当のところは分かりませんが・・)。
これらの反論に対しては、「一方的に妻に完璧な家事を求めていたわけではなく、自分としても可能な限り家事をした。それなのに妻は協力せず、相変わらず家事をしようとしないのだから、もう婚姻関係を続けられない」という方向で再反論することになるでしょう。もちろん、単にそのような言い分を述べれば足りるというわけではありません。妻がやらなかった家事を実際にカバーしたうえで、それがいつ、どのように行ったことなのか等を記録しておき、調停などの場で証拠として提出できるようにしておくことが重要です。
「妻が家事をしない」と言うだけでは、それがどの程度のことなのか、調停委員や裁判官は理解できません。たとえば家の中が相当の期間にわたって継続的に散らかっている(あなたが片づけてもすぐに散らかす)ところを写真や動画で撮影するとか、家計費の内訳をまとめる(ex.洗濯や料理をしないので水道光熱費が安い、逆にクリーニング代が掛かっている)など、調停委員や裁判官にも理解できるように具体的に説明・立証することが必要です。家事放棄の程度がどれほどひどいのかを理解してもらえれば、調停委員や裁判官から、妻に離婚に応じるよう説得してくれることもあります。
もっとも、専業主婦の妻が夫との離婚を希望している場合なら夫を説得してくれやすいですが、「離婚を拒む専業主婦を説得し離婚に応じさせる」ということには、調停委員や裁判官が躊躇することが多いのもまた事実です。なぜなら、調停はあくまで話し合いの手続きですので、妻が徹底して離婚を拒否するなら調停委員も裁判官もどうしようもないという前提があるため、最後の最後で「専業主婦だし、そこまでやるのは妻がかわいそう」という気持ちに傾きやすいからです。ただその場合であっても、上記写真などは後の離婚訴訟で使える証拠となりますので、これらの証拠を集めておくことは無駄ではありません。
話し合い(=離婚協議・離婚調停)で妻が離婚に応じない場合、どうしても離婚したいなら、離婚訴訟を提起するしかありません。
あなたが強く離婚を希望することは、それ自体が婚姻破綻を示す一つの事情といえなくもありませんが、それだけで離婚が認められるわけではありません。
専業主婦の妻が家事をしないことを、「婚姻を継続し難い重大な事由」(=離婚原因)に当たると裁判官に正面から認めてもらうのは、極めて難しいです。しかし、それでも離婚訴訟を提起する意味はありえます。
裁判官は判決を書きたがらず、和解で解決させようとします。そのため「夫がここまで強く離婚を希望している以上、離婚に応じてはどうか」と説得してくれる可能性があります。
調停の場合、いくら説得したところで肝心の妻が離婚に合意しなければどうしようもないため、そこまで強く説得してくれるわけではありません。しかし判決では、当事者がどう考えていようが裁判官が一つの結論を出すことができます。そのため、裁判官に「離婚を認めてあげることが、客観的にみて望ましいことだ」と思ってもらうことができれば、妻をそれなりに説得してくれることがあるのです。
その意味では、はっきり離婚原因があるといえないような場合であっても、あえて離婚裁判を提起するのも一つの方法といえます。とは言っても、あなたが可能な限り家事を手伝っているが、妻の家事放棄の程度が著しく、誰が見ても(=第三者である裁判官から見ても)相当悲惨な状態に陥っているということを証明できる状態であることが、最低限必要だと思われます。「専業主婦なのに家事をしない」というだけで、裁判官が妻を説得してくれると期待すべきではありません。
相当長期間の別居はそれ自体離婚原因となります。あなたが離婚を最優先すると決めたのなら、別居に踏み切った上で時が過ぎるのを待ちつつ、適切な時点で調停・訴訟をするのも一つのやり方です。しかし、次に述べるようなデメリットもありますので、よく検討してからにしなければなりません。
妻は専業主婦ですので当然あなたの方が高収入です。そのため、妻との離婚が成立するまではそれなりの額の婚姻費用を支払う義務が出てきます。
妻は離婚に応じると婚姻費用を支払ってもらえなくなりますから、あなたが別居に踏み切った後にはなおさら話し合いでの離婚に応じなくなってしまう可能性があります。
あなたが住宅ローンを支払っているといっても、その額が丸々婚姻費用から差し引かれることはまずありません。さらに、あなたは自分の住居の家賃を上乗せで払う必要があります(実家に戻るなら別でしょうが)。そのため、婚姻費用や住宅ローンの支払いと合わせると、かなり多額の負担を強いられる可能性が出てきてしまいます。
専業主婦なのに家事をしない妻との離婚をあなたが最優先するのなら、別居に踏み切る意味は十分にあります。このようなデメリットがあるとはいえ、別居により婚姻破綻を作り出すことによって、いつかは離婚が認められるからです。
専業主婦の妻が家事の大部分を担当するのは当たり前だ、家事をしないのは論外だと夫は考えることが多いでしょう。その気持ちはもっともですが、いざ離婚したいとなると難題に直面します。
専業主婦の妻は、収入面の不安から、すぐには離婚に応じない傾向にあります。それなら(離婚調停や離婚訴訟という形で)裁判所の手続きを使うのはどうかというと専業主婦なのに家事をしない」というだけで調停委員や裁判官を味方につけることはできません。離婚調停や離婚訴訟となる場合を考えて、あなた自身もきちんと家事を分担しているのに妻は家事をしないことや、妻が家事をしていないことの証拠(荒れ果てた部屋の写真など)が重要となります。
離婚の確実性を高めたいなら別居に踏み切ることも考えられます。しかし金銭面等のデメリットもありますので、踏み切る前によく検討しておく必要があります。家事をしない専業主婦との離婚を決意されたのであれば、弁護士に相談の上で進めていくことをおすすめします。