離婚コラム
調停や審判では、婚姻費用や養育費の額は、双方の収入に基づき、算定表に従って算定されます。そうすると、「調停で既に金額は決められてしまったが、これから私がわざと自分の収入を減らしたら、その額を減らせるのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、そう簡単に減額できるわけではありません。
正当な理由でやむなく退職せざるを得ず収入が激減した、といった事情が典型です。「予見しえない」という言葉の語感からするとかなり限定的に聞こえてしまいますが、厳密に言えば予見しえないといえるかどうか微妙な場合であっても、それなりに重大な事情変更があるのであれば、減額を求める調停・審判を申し立てる価値はあります。
実収入が減っている事実があっても、調停や審判では「本当は、それまでと同じ収入を得ることができるのではないか」という点を突っ込まれることになります。たとえばあなたの学歴、職歴、健康状態等々諸般の事情を考慮して、収入が減ったのは予見できずやむをえないことなのか、減収は今後も続くことが予想されるのか、今までどおりの収入を得ることができる可能性はないのかといった点などについて調停委員なり裁判官から詳細な説明を求められますので、これらに対する合理的な説明が必要です。合理的な説明ができなければ到底減額は認められません。
歯科医として病院に勤務していたが退職し、大学の研究生として勤務するなどしていたが、年収が約3割減少していたというケースです。裁判所は、「退職の理由について、人事の都合でやむを得なかった旨主張するが、実際にやむを得なかったか否かはこれを明らかにする証拠がない上、仮に退職がやむを得なかったとしても、その年齢、資格、経験等からみて、同程度の収入を得る稼働能力はあるものと認めることができる」とし、「相手方が大学の研究生として勤務しているのは、自らの意思で低い収入に甘んじていることとなり、その収入を生活保持義務である婚姻費用分担額算定のための収入とすることはできない。」と述べて、婚姻費用の減額を認めませんでした(大阪高裁平成22年3月3日決定)。
婚姻費用や養育費の額を減額してもらうには、原則として、予見しえない事情変更が必要とされます。収入の減少を理由に減額を認めてもらえる余地はありますが、なぜ収入が減ったのか、減収が今後も長期的に続くのかどうかといった点について合理的な説明が求められます。「どうやら、婚姻費用や養育費の額に納得がいかず、金額を下げるために形だけ収入を減らしただけのようだ」と判断されてしまうと、減額は認められません。
違う言い方をすれば、一旦決まった婚姻費用や養育費の額を下げるのはそうそう簡単にできるわけではありませんので、決まる前にきちんと主張・反論をしておく必要があるということです。