離婚コラム
離婚の手続きには協議、調停、訴訟の3つがあります。このうち協議については、夫婦が話し合う形式に決まりはありません。たとえば二人だけで内密に話をしようが親族を交えようが、それは夫婦の自由です。調停や訴訟は裁判所で行われるため、手続きがどのように行われるかについては、法律上の決まりがあります。調停はほぼ完全に第三者には非公開の手続きですが、訴訟はそうとは限りません(むしろ建前上は、訴訟は公開が原則です)。
離婚調停には、2名の調停委員(多くの場合は男女1名ずつ)を始めとする裁判所の関係者が関与することになります。離婚協議では(多くの場合は)二人だけで話し合えば済みますが、離婚調停となると、夫婦間のプライベートな問題を調停委員に話すことになりますので、すくなくとも調停委員と、手続に関わる裁判所の関係者には、夫婦間の問題を知られてしまうことにはなります。
なお、調停委員などの裁判所の関係者が知った秘密を他に漏らした場合には、刑罰の対象になる旨法律で定められています。離婚調停の手続きを安心して利用できるように、法律上も配慮がなされているわけです。
家事調停の手続きは、それ以外の第三者には公開されません。なお、「裁判所は、相当と認める者の傍聴を許すことができる」という法律の規定もありますが、これは例外的なものです。調停は、夫婦がそれぞれ個別に調停委員に事情を説明していく形で進行していきます。したがってその場に突然(裁判所関係者以外の)第三者が表れて内容を知られてしまう、というようなことはありません。
離婚裁判は家庭裁判所で行われるため、裁判官などの裁判所関係者が関与することは離婚調停と同様です(離婚裁判には調停委員は関与しませんが、参与員が関与することがあります)。これに加え、裁判は公開法廷で行われることになっていますので、その裁判を傍聴する人いれば、その内容を知られてしまう可能性はあります。
もっとも、現実の離婚裁判では、第1回目の訴訟は原告(離婚を求める側)だけが出席し、第2回目の裁判からは被告も出席のうえで、「弁論準備手続」という原則非公開の手続きになることが多いです。弁論準備手続という形で訴訟が進行している間は、傍聴人に見られることはありません。
公開法廷ではなく裁判所内の小さな会議室で行われ、裁判官と双方の当事者(+代理人弁護士)が話し合う手続きです。全員で話すこともあれば、調停と似たような形で、まずは裁判官と原告が、その次は裁判官と被告がというように、相互に話し合いをすることが多いです。
もっとも、弁論準備手続のうちに和解がまとまらないと、いずれは「尋問」という手続きに入ります。この尋問というのは、裁判官の面前で、当事者や証人が事情を聞かれる手続きのことです。尋問は基本的に公開法廷で行います。そのため、尋問の際に傍聴人がいれば、すくなくとも傍聴人に夫婦間の生々しいやり取りを知られてしまいます。
なお、実際の尋問期日では、あなたに傍聴人のことなど気にする余裕はまずないでしょう。あなたは一人証言台に立って、敵である相手方の弁護士から色々と意地悪な質問をされ(あなたが弁護士をつけていれば味方の弁護士からも援護射撃の質問がされますが)、さらには裁判官から補足で様々な点を聞かれることもあります。こうした質問とその回答に集中することを強いられますので、証言台の後ろにいる傍聴人のことはほとんど意識しなくなっていることも多いです。
全くいない時もあれば何人もの人がいる場合もありケースバイケースですが、テレビドラマのように傍聴席が満員ということはほとんどありません。もっとも、あなたや相手方配偶者がマスコミに追いかけられるような著名人なら別かもしれません。
離婚訴訟の場合、当事者のいずれかが「この人に傍聴してもらいたい」と思って尋問日時を積極的に知らせ、その人が傍聴に来るというケースは、ほとんどありません。相手方配偶者としても積極的に誰かに見てもらいたいとは思っておらず、あなたと同様に「尋問を非公開でしてほしい」と希望している場合がほとんどです。
また、いくら尋問が公開されているといっても、誰と誰の尋問をいつどこの法廷でやるのかということは調べようとして調べなければ分かるものではありませんし、何の事前情報もないのに調査・特定するのはかなり困難です。よくあるご質問として、「自分はもちろん配偶者も尋問日時を誰かに知らせることはないと思うが、たまたま傍聴に来ていた顔見知りに色々知られてしまうこともありますよね?」と心配される方がいらっしゃいます。もちろんその可能性が全く無いとは言い切れませんが、一般的にはかなり低いと思って構いません。
多くは、全く当事者には関係のない、裁判を見てみたかったという傍聴人です。それとは別に司法修習生(弁護士などになる前の研修生)が研修のために傍聴していることもあります。その場合、司法修習生は傍聴席ではなく法廷の中(裁判官や弁護士の近く)に座っていることが多いです(ちなみに司法修習生にも、知った秘密を漏洩してはならない義務があります)。
いくら傍聴人は赤の他人であることが多いとはいっても、夫婦間の赤裸々なやり取りを知られたくないというのはごく自然なことでしょう。法律上も、特定の要件を満たす場合には、尋問の内容を傍聴人には公開しない形にしてもらうことができる、という規定があります(人事訴訟法22条)。
もっとも、結論だけ言えば、ここでいう特定の要件を満たすのは非常に難しいため、公開停止にしてもらえる可能性はかなり低いです。自分が何人もの異性と不貞したことを傍聴人の前でバラされたくないとか、配偶者との性交渉がいつまであった・いつからなかったといったプライベートなことを人前で話したくないといった程度では、まず認めてはもらえません。ちなみに、特定の要件を満たす具体例としては、子どもが親から著しい性的虐待を受けているような場合が想定されているようです。
離婚調停や離婚裁判となると、調停委員や裁判官といった裁判所の関係者が関与してくることになります。こうした関係者には、知った秘密を漏洩してはならない義務が課せられています。調停の段階ではそれ以外の第三者には原則非公開ですが、裁判になると、傍聴人にも知られる可能性が出てきます。現実には、離婚裁判になっても、尋問期日以外は弁論準備手続という非公開の手続きで進められることが多いです。また、尋問でも傍聴人は(夫婦にとって何ら利害関係のない)赤の他人であることがほとんどですので、内容を知られることについて過度に恐れる必要はありません。たとえば相手方配偶者が著名人である場合など、どうしても離婚裁判にはされたくないと思っているようだ、という場合があります。この場合、交渉次第では相当有利な条件で(話し合いで)離婚できる可能性もあります。このまま離婚協議や調停を進めていってよいのかどうか、交渉の進め方に自信がないという方は、弁護士に相談してみることをお勧めします。