離婚コラム
夫(妻)が突然行方不明になってしまい、しばらくすれば戻ってくるだろうと思っていたのに音信不通が続くということがあります。単に連絡が取れないだけという場合もあれば、相手方の生死すら不明な場合もあります。
このように配偶者が行方不明になってしまった場合、どうすれば離婚ができるのでしょうか?
生死不明という状況が3年間継続していると、それ自体が離婚原因となります。したがって、裁判離婚が認められることになります。
単に連絡が取れない、行方が分からない、住所不定というだけでは生死不明には該当しません。生存も死亡も確認できないが死亡の可能性が相当ある、といえる場合でなければなりません。
このような生死不明の状況に陥ったことについて、相手方の過失(落ち度)は不要です。たとえ相手方が落ち度なく生死不明になったという場合でも、相手方に離婚原因があるということになります。
悪意の遺棄というのは離婚原因の一つで、正当な理由なく同居・協力・扶助義務(助け合い義務)を果たさないことを意味します。たとえ生死不明とまではいえなくても、家を出たまま行方不明であるとか音信が途絶えているというような場合、夫婦間で果たすべきこうした義務を放棄していることになりますので、悪意の遺棄に該当する可能性があります。
婚姻を継続し難い重大な事由というのも離婚原因の一つです。行方不明や音信不通等の事情がなくとも、別居がそれなりの期間継続するとそれだけでこれに該当する可能性が出てきます。
一般論としては、離婚訴訟の前に調停をしておく必要があります(調停前置主義)。もっとも、仮に調停をせずいきなり離婚訴訟を提起したとしても、訴訟が却下される(=裁判官が訴訟の中身を全く見ずに、門前払いで終了する)わけではありません。その場合、裁判官から「調停をしていないのでこれから調停にします」と言われて、調停手続きに移行することになります。
しかし、相手方が行方不明の場合には、「調停をしていませんが、それは相手方が行方不明だからです。そのため調停にはしないでください」という上申書を添付するなどして、管轄の(あなたの住所地の)家庭裁判所に離婚訴訟を提起することになります。相手方が行方不明である場合にまで、調停をしておく必要はありません。
訴訟を提起すると、あなたの言い分をまとめた訴状が、裁判所から相手方に届けられることになります(=送達)。しかし、相手方は行方不明ですので、そのまま郵送しても、相手方本人の手元に届けることができません。
このような場合、公示送達という手続きが取られます。
相手方の行方不明などの場合に、裁判所書記官が訴状を保管しておき、いつでも交付しますと裁判所内の掲示板に掲示することで、相手方に送達されたものと扱うことです(掲示後2週間で公示送達の効力が発生します)。要するに、公示送達があると、相手方は実際には訴状を受け取っていないのに、訴状は届けられたことになるわけです。
実際に受け取っていないのに届けられたことになってしまうわけですから、裁判所に公示送達をしてもらうためには、相手方が行方不明であることについてかなり細かく説明・説得しなければなりません。
公示送達後、第1回目の裁判が開かれますが、相手方は出席してきません。裁判所の掲示板を定期的にチェックするような行方不明の人物などふつうはいませんので、自分が訴えられたとはまず気づかないからです。
公示送達の場合、裁判所は、第1回目の裁判から証拠調べ(=あなたが提出した証拠の検討)を行うのがふつうです。
通常の民事訴訟では、被告が欠席すると、原告の言い分がそのまま認められることがあります(=いわゆる欠席裁判)。
しかし、離婚訴訟ではそのような扱いはされていません。相手方に離婚原因がある(ex.3年以上の生死不明、悪意の遺棄、…)ことを、あなた自身が証明していかなければなりません。
相手方に離婚原因があると裁判官を確信させることができたら(=離婚原因を証明できたら)、裁判離婚を認める判決が下されます。
判決が出たら、判決確定日から10日以内に、判決謄本と確定証明書を添えて、役所に離婚届を提出します。
行方不明の相手方とは離婚協議も離婚調停もできませんから、行方不明が解消される見込みがないのなら、裁判離婚の方法を検討することになります。
3年以上の生死不明が続いていれば、それだけで離婚原因になります。生死不明が3年は続いていない場合や、死亡してはおらず単なる音信不通・行方不明だろうという場合でも、悪意の遺棄や婚姻を継続し難い重大な事由として、離婚原因になりえます。
どちらにせよ離婚訴訟を提起することになりますので、弁護士に相談することをお勧めします。