離婚コラム
離婚調停(=「夫婦関係調整調停(離婚)」)や円満調停(=「夫婦関係調整調停(円満)」)で何度か話し合ったものの意見の隔たりが埋まらず、同居や離婚について意見が平行線となる場合には、調停不成立で終了します。
別居調停というのは、もともと離婚調停や円満調停が申し立てられており、そこで話し合った結果として「当分の間別居する」という内容で合意に至り成立する調停のことです。つまり「結果的に当分の間別居するという内容で成立する調停のことを、別居調停という言葉で呼んでいる」だけです。
したがって、別居調停という言葉を聞いて、離婚調停や円満調停と似たようなものだと理解するのは誤りです。たとえば仮に「別居してよいというお墨付きを裁判所に出してほしいので、別居調停をこれから申し立てたいです」と裁判所窓口に相談したとしても、「そんな制度はありません。離婚したいのなら離婚調停を申し立ててください」と言われてしまいます(※)。
(※)東京家庭裁判所のホームページから申立書の書式をダウンロードできるようになっています。見ればお分かりのとおり、「夫婦関係調整調停(離婚)」や「夫婦関係調整調停(円満)」はありますが、「夫婦関係調整調停(別居)」はありません。
別居調停は、夫婦関係についてよく考えるための期間(=熟慮期間、冷却期間)を置くという趣旨があることが多いようです。すなわち、同居・円満状態に戻るのかあるいはキッパリ離婚するのかの結論がすぐには出ない場合に、双方とりあえず別居することには同意の上、結論を先延ばしせざるをえないような場合に成立させることが多いようです。
確かに、一時的な別居期間を置くことで望む方向に好転することもありえますので、全く無意味なわけではないでしょう。時間が問題を解決してくれることも可能性としてはありえます。
事実上、別居調停が成立する場合には婚姻費用や監護権者についても合意がまとまることが多いです。そのため、それらの点を明確化して調停調書の形にしておくというメリットはあります。
別居調停は、離婚調停や円満調停で話し合った結果の、いわば妥協の産物として成立している、という面も否定できません。すなわち、一方は強く離婚を希望しているが、他方は離婚を強く拒否している場合には、離婚を希望している側は調停を不成立として離婚訴訟に進むほうが一般的です。しかし、離婚を希望しているものの、訴訟では勝てないと見込んでいる場合や、訴訟は避けたいという場合に、別居調停を成立させることがあるのです。離婚を請求されている側としても、すぐに訴訟提起されるよりは、しばらく別居という調停成立に応じることがあります。
一時的別居をして熟慮期間を置くことで、自分の望む方向に持って行きやすくなる可能性があります。とはいえ、冷却期間を置いたことが同居・円満方向と離婚方向のどちらに寄与するのかは、双方の性格、関係悪化の経緯や熟慮期間中の双方の具体的行動等によって異なってきます。
同居・円満を求める側からすると、一時的別居によって相手方が一旦落ち着き(感情的対立が和らぎ)、もう一度やり直す方向で調整できるようになるかもしれないという期待が持てます。たとえば一時的別居中に面会交流実績を積み重ねるうち、夫婦関係を修復しようという気持ちになってくることもあるでしょう。
離婚を求める側からすると、一定期間の別居によって相手方が夫婦間の溝の大きさを再認識し、別居生活にも慣れることで婚姻継続を諦めてくれる可能性があります。
上述のとおり、別居調停が成立する場合の多くは、一時的別居の点以外にも、その期間中の婚姻費用や子どもの面倒をどちらが監護するかといった点についても合意ができています。こうした点をきちんと調停調書の形で取り決めることができるのも、メリットの一つです。
メリットの裏返しの話ですが、当然ながら一時的別居が自分の望む方向に働くとは限らない点には注意が必要です。「一時的に別居して頭を冷やせば、後でまた修復できるだろう」と思っていたのに、別居後に相手方が恋人を作ってしまった(※)というようなケースもあります。一度は調停を申し立ててまで離婚を求めてきたのですから、よほどの事情がない限りは再び修復しようという気持ちになることは期待できないというのが実情です。
(※)一般論としては、別居後に交際を始めたということになると、その恋人への不倫慰謝料請求が困難になりがちです。
調停成立後、時間を置かず離婚訴訟を提起した場合、「別居調停に応じたことで、当面の別居に同意したはずではないか。なぜ離婚訴訟を提起するのか?」という点が問題になることが予想されます。裁判所の判断にもよりますが、(形の上では一旦調停を経ているので)そのまま離婚訴訟が進行する可能性もありますが、再度調停手続をしなければならない可能性もありえます。
離婚訴訟を提起する可能性を考えるのなら、別居調停を成立させるのではなく、不成立で終了させるほうが無難です。
別居調停は消極的な妥協の産物で成立するものです。積極的に成立を目指すようなものではありませんし、大きく期待を寄せるようなものでもありません。
別居調停成立により、当面の別居と婚姻継続につき合意したことになります。しかし現実には、別居調停成立後しばらくすると婚姻費用を支払う意義を見出せなくなったり、別居で顔を合わせない状況に慣れ修復意思を失ってしまったりすることも多いです。その後離婚訴訟を提起しようとしたときに「当面の間別居する」という合意をしたことが足枷になる可能性もありえます。別居調停成立のメリットはそれほど大きくはない、と理解しておくのが無難かと思われます。